『iPS細胞』読了 - 賞味期限付きのセンス・オブ・ワンダー
八代嘉美さんの『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える (平凡社新書 431)』を読み終えました。
この本が出版されるのを知ったのは小飼弾さんのブログのエントリーでです。当初はAmazonで注文できなかったので近所の本屋さんに取り寄せていただいたのですが、入荷の知らせと同時にAmazonでも注文できるようになりました。これってどうよ?
本書は現在進行形の重要な研究テーマであるiPS細胞とそれを用いた再生医療を紹介するものです。その構成は絶妙で、まずiPS細胞について理解するために重要ななES細胞と幹細胞について解説し、それを踏まえてiPS細胞ます。その語り口はわかりやすいし、こういった研究に対する日本の官僚の組織の動きの鈍さに対する著者の嘆きには誰にも共感できるものでしょう。
ただ、本書はもう一度書くが現在進行形の重要な研究テーマであるiPS細胞とそれを用いた再生医療を紹介するものです。教科書としてiPS細胞に至る過程については今後も読みうるものでありますが、iPS細胞自体は旬のものであり、1年後にはまた大きく状況が変わっているかもしれません。本書は今読まれるべき本であり、その賞味期限は今年いっぱい、というところでしょうか。iPS細胞に関心があるなら、今読むことによって素晴らしいセンス・オブ・ワンダーを得られることでしょう。
気になった点が2点あります。
1点は、2章の≪まとめ≫の
また、<発生>や<分化>の進行とは、不要となった遺伝子がつくられなくなっていくプロセスであることを確かめることができたわけである。
という部分(P.61)。遺伝子の定義が不明確だ。遺伝子がDNAであるなら、本書を読んだ限りでは「遺伝子がつくられなくなっていくプロセス」では「遺伝子が(メチル化によって)機能しなくなっていくプロセス」と書かれるべきではないか。<発生>や<分化>によってDNA塩基配列自体が損なわれる訳ではないはずだが。或いは、「(メチル化によって)不要となったタンパク質がつくられなくなっていくプロセス」なら分かるけれど。
もう1点はあとがきの
最後は0.1フェムトメートル(10-14m)の正方形が原子の世界を映し出す。
という部分(P.201)。0.1フェムトメートルは10-16m。出版に至る過程でチェック機構は働かなかったのでしょうか。
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